カイプロの西川です。月5,500THBで会計士・弁護士・社労士などの日本人専門家にいつでも気軽に相談できる顧問サービス「カイプロ」を運営しています。(詳細はこちら

今回はタイにおけるVATの概要について解説します。内容は非常に基礎的な部分になります。VAT(日本でいう消費税)は少々難解な税制ですが、しっかりと理解できるよう順を追って解説しています。

長文となりますが、本記事の内容がしっかりと理解できれば、タイのVATの概要がつかめていると言って差し支えないかと思います。 ぜひじっくりと読んでみていただき、ご参考にしていただけますと幸いです。

なお本記事は全4回のうち1回目(概要)になります。

第1回:タイVATの概要(本記事)
第2回:輸出・輸入の取扱い
第3回:繰越し・還付の取扱い
第4回:タックスインボイス

解説者:Kaipro 西川(公認会計士)

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※本内容は執筆時点(23年6月)のものです。

事業者は原則負担なし

よくある疑問

仕入にかかるVATは、購入事業者が負担している?

回答

VATは原則として事業者は負担しません

解説

まず大前提として、「事業者はVAT(付加価値税)を負担しない」ことが原則です。一般的な疑問として、「仕入れ時にVATを支払っているが、この分を我々の会社が負担しているのか?それとも売上に上乗せして回収する必要があるのか?」というものがあります。

この答えは、「VATは原則として事業者が負担するものではない。したがって、売上に上乗せして回収する必要はない」ということです。ここで、事業の流れに基づいて説明します。

まず、自社が原材料を購入しますが、その際VATを支払います。例えば、購入品が100、VATが7だとしましょう。その後、購入した材料を加工して販売します。販売時の売上が300であれば、その売上に対してVATを21として上乗せします。そうすると、我々は顧客からVAT 21を受け取ることになります。

一見すると、最初にVAT 7を支払っているので負担しているように思えますが、これは一時的なもので、最終的には事業者はVATを負担しません。なぜなら、顧客から受け取ったVATの一部を、最初に支払ったVATに充てることができるからです。(上記例では、顧客から受け取ったVAT 21で最初に支払ったVAT 7を補填)。この補填により、最初に支払ったVATは最終的に精算され、負担ゼロになります。

さらに受け取ったVAT 21のうち、支払い済みのVAT 7を差し引いた分、つまり14は、自社のキャッシュフローを一時的に増やします。ただし、この増加分については後に税務署へ納税することになります。

つまり、VATの流れとは、「売上に対するVATの収入で仕入れ時のVAT支払いを補填し、その残額を納税する」ことです。これがVATの基本的な仕組みであり、この過程で事業者がVATを負担することはない、というのが大前提です。

※「売上VATで仕入VATを賄う」とは本解説独自の表現であり、通常は「売上VATから仕入VATを差引く」と表現する、この差引くことを、控除、仕入税額控除などと言う。

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VATの目的は納税タイミングの早期化

よくある疑問

事業者はVATを負担しないのであれば、なぜこのような煩雑な仕組みが必要なのか?

回答

VATは、納税タイミングの早期化が目的です。

解説

それでは、次に「なぜこのVATの仕組みが必要なのか」について説明します。事業者はVATを負担しません。最終的にはプラスマイナスゼロになるので、一体何のためにこの仕組みを運用しているのでしょうか。

その答えは、納税タイミングの早期化です。VATは日本で言う消費税であり、消費者の消費に対して最終的に課税されます。しかし、消費者が実際に商品を消費するまで課税がされない場合、税収が発生するまで大量の時間がかかってしまいます(例:鉱山で鉱石を採掘⇒素材⇒部品⇒製品⇒販売⇒消費)そこで、それよりも前のタイミングで税収が発生するような仕組みとしてVATがあります。

例えば、A社が100の売上を上げたとします。それに対して、B社は107のお金をA社に支払います。A社は受け取った7のVATを納税します。この段階で税務署にはすでに税収が発生しています。この際、この納税分のVAT7の資金的な負担者はB社です。A社が売上を立てると同時に、B社には仕入れが発生するからです。B社はこの仕入れの金額に対してVATを支払い、一時的にその負担を行います。

次に、B社がその商品を加工し、200で販売すると、C社から214を受け取ります。B社は受け取った14のうち、先ほど支払ったVAT7を補填し、自社の負担をゼロにします。そして、余分に受け取った7を納税します。この時点では、B社の負担は既に精算され負担ゼロとなっており、B社が先に負担していた部分も含め、納税額の全額をC社が一時的に負担しています。

つまり、各社は一時的にVATを負担し、その後で補填します。これにより、事業者は原則として負担ゼロとなりますが、各社が一時的に資金を負担することで、税収が段階的に発生します。そして、最終的に消費者が商品を購入する際に、全てのVATを負担します。なぜなら、消費者は商品を販売するわけではないため、VATを補填する機会がないからです。

このように、VATの仕組みは、消費者の消費を待たずに、バリューチェーン全体で段階的に税収を発生させる目的があります。

VAT納税額は会社全体で計算

よくある疑問

輸出では売上VATを預からないため、仕入にかかったVATを回収するには売価に上乗せする必要がある?(※輸出取引では顧客へVATを請求しない(後述))

回答

輸出の場合でもVATの事業者負担はありません。そのため、仕入VATを売価に上乗せする必要はありません。

解説

VAT(付加価値税)の納税は、各取引ごとではなく、会社全体で計算します。

特に輸出取引は免税(後述)のため、海外の顧客へはVATを請求しません。そのため、取引単体でみると輸出では売上VATの入金が無く、その仕入れにかかったVATを補填することができません。

ここでの疑問は、「輸出製品に関する仕入れで支払ったVATはどうやって回収するのか?」、「売上に上乗せして利益として回収するのか?」ということです。答えとしては「会社全体で他の国内売上からのVAT収入が十分にあれば、それを使って輸出製品に関する仕入VATを補填」します。VATの収支は取引単位ではなく会社全体で計算をするため、国内売上のVAT収入が十分にあれば、こうした補填が可能です。

※ただし、国内売上が十分にない場合、輸出取引に関する仕入れで支払ったVATを賄いきれず問題が生じます。この点は後述をします。

第1回は以上となります。

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他のVAT解説記事
第2回:輸出・輸入の取扱い
第3回:繰越し・還付の取扱い
第4回:タックスインボイス

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