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※本内容は執筆時点のものです。
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回答者:BM Accounting 長澤(社会保険労務士、米国公認会計士(inactive))
J Glocal Accounting 坂田(タイ税務・BOI専門家)
Kaipro 西川(公認会計士)
タイでの法定退職金・退職給付引当金の概要
ご質問の要約
定年退職時の解雇補償金に備え引当金を計上しなければならないと聞きました。
概要を教えてください。
カイプロ専門家の回答
2017年のタイ国労働者保護法の改正で、定年退職の際、法令で定められる解雇補償金と同等額を退職金として支払うこととなりました。(従来も判例で支払いが命じられるケースはありましたが、それを明確に規定した形)
従って、以下の通り定年退職時点の勤続期間に応じて解雇補償金(退職金)の支払いが必要となります。(月給者の場合は、月給÷30日で1日あたり賃金を計算)
勤続期間 | 解雇補償金(退職金)の額 |
120日以上1年未満 | 退職時の賃金の30日分 |
1年以上3年未満 | 退職時の賃金の90日分 |
3年以上6年未満 | 退職時の賃金の180日分 |
6年以上10年未満 | 退職時の賃金の240日分 |
10年以上20年未満 | 退職時の賃金の300日分 |
20年以上 | 退職時の賃金の400日分 |
この改正に伴い、会計上も将来発生が見込まれるものとして、この解雇補償金(退職金)に対する退職給付引当金の計上が求められています。
退職金の計算対象となる賃金手当
ご質問の要約
引当金の計算対象となる賃金ですが、基本給のほか手当も含まれますでしょうか?
カイプロ専門家の回答
手当のうち、毎月一定額で支給しているものは計算対象に含まれます。
一方、皆勤手当、残業代など毎月一定額でないもの、賃金ではありますが社会保険上の算定基礎(定期的に同額支給)に含まれないため、解雇補償金の計算対象には含まれないと一般的に理解されています。
退職金の支給タイミング
ご質問の要約
定年退職時の退職金(解雇補償金)はいつまでに支払えば良いのでしょうか?
カイプロ専門家の回答
解雇の場合、最終給与、解雇補償金などは解雇日から3日以内の支給となっています。
一方、定年退職時を含むその他の退職理由については支給時期について特段法律で定められていません。一般的には、次の給与支給日に支払いをするケースが多いかと存じます。
引当金の計算方法の概要
ご質問の要約
タイでの退職給付引当金の計算方法の概要を教えてください。
カイプロ専門家の回答
概要としては、現時点の従業員に対して将来支払うであろう退職金額を確率的に計算し、現時点で負っている負債額を見積り、この負債額を引当金としてBS負債計上します。(反対勘定は費用)
計上に関し、通常以下のパターンがあります。
- 年金数理人(アクチュアリー)へ委託し計算、結果を計上
- 社内で計算し計上
- 監査人が計算し、結果を計上。または計上しない。
1.年金数理人(アクチュアリー)へ委託し計算、結果を計上
年金数理人(アクチュアリー、Actuary)へ委託し年金数理計算を行い、その計算結果報告書(アクチュアリーレポート、Actuarial rerport)上の現時点での負債額(将来支払うべき金額のうち現時点で負債として負っていると見做せる部分)を引当金として計上します。規模の大きい会社、あるいは監査人が大手などで監査の水準が厳しい場合に主に採られる方法です。
計算結果の信頼性が高いため、大手監査法人の監査でも基本的に利用可能です。一方、依頼にはコストがかかります。
委託費用の削減のため、アクチュアリーレポート上、一定の条件に基づく3年間の負債見積額(=引当金見積額)の推移を記載する場合があり、この場合、監査人と協議のうえ一度入手したアクチュアリーレポートを3年程度使用することも認められる場合があります。-
2.社内で計算し計上
中小規模の会社で、監査人の監査水準が厳しくなく、また経理スタッフのレベルが一定以上ある場合で、コスト(アクチュアリ―への委託費)を抑える場合などに採られる方法です。
従業員数、勤続年数、年齢、給与額、昇給率、離職率(年齢レンジごとの定年までに離職する確率)等の前提条件に基づき、
「各従業員が定年退職まで在職した場合の退職金額 × その従業員が定年退職まで在職する確率」から支払うこととなる金額を確率的に見積り、それを一定の割引率で現在価値(※)に割り引くことで現時点での負債額を計算します。
計上結果は最終的に監査人による監査を通る必要があるため、計算根拠(各従業員の勤続年数、年齢等の情報、計算過程)を提示・説明することが必要です。
なお本方法はアクチュアリーによる本来的な年金数理計算とは異なります。
計算方法の一例として、以下コラムをご参考にして頂ければ幸いです。https://arayz.com/columns/jga_tax_202104/
※支払うべき金額は各従業員の定年退職時の支払額(将来的に支払うべき金額)です。この点、会計上は将来の負債額と現在の負債額は異なると考えます。資産側での現在の現金100万円と将来の現金100万円は価値が異なるという考え方と同じです(現在の現金100万円は運用することで将来価値が高まる)。そのため、現在負っている負債額は将来的に支払う金額よりも小さいと考え、将来的に支払いが必要になる金額(発生確率をかける等した見積額)を一定の割引率(国債の利率など)で割引計算した結果を負債として計上します。
3.監査人が計算し計上。または計上しない。
現状、中小企業においては社内計算をする体制が無い会社も多いことから、(本来は認められませんが)会計監査人が試算をし、会社側が確認のうえ計上するケースが多く見られます。
この際、従業員数が多くない、勤続年数短い、年齢が低い、早期離職率が高く定年に達する可能性が少ないようなケースでは引当金の計上を行わない(監査人が要求しない)ケースも見受けられます。
今期から計上開始する場合の処理
ご質問の要約
当社ではこれまで引当計上を行っていませんでした。
当期から計上をすることとなったのですが、計算結果の負債額を今年度に一括計上するのでしょうか。あるいは、毎年少しずつ計上していくのでしょうか。
カイプロ専門家の回答
これまで計上をしていなかったのであれば、今期は全額を計上します。
今後は毎年、決算のタイミングで数理計算を行い、負債の増加額(減少額)を追加計上(取り崩し)することになります。
引当金の税務上の取り扱い
ご質問の要約
退職給付引当金の計上時の費用は税務上認められますか?
カイプロ専門家の回答
退職給付引当金に限らず、引当金計上時の費用全般は見積費用のため税務上認められません。
法人税申告書(PND50)において、引当計上による費用を加算処理(税務上なかったものとし、利益を増やす処理)をします。
一方、実際に定年退職があり解雇補償金を支給した場合、会計上は既に引き当て計上済み(=費用計上済み)のため、当該引当金を充当することで追加の費用計上はありませんが、税務上は解雇補償金支給時に費用として認められます。
そのため、実際に解雇補償金を支給した年度において、法人税申告書(PND50)上で減算処理(会計上費用として計上されていないが、税務上のみ費用を計上すること)をします。
減算処理の漏れがないよう、引当金の増減明細(前期からの引当金繰越額、当期の引当金追加計上額、引当金の使用額、結果の当期末残高を記載した明細)を作成するのが望ましいです。
通常解雇時の解雇補償金に引当金を充当できるか
ご質問の要約
退職給付引当金は解雇時の解雇補償金に充当(使用)できますか?
カイプロ専門家の回答
タイでの退職給付引当金は「定年退職時に支払う解雇補償金」について負債額を見積り計上したものです。そのため、「解雇時に支払う解雇補償金」に充当することはできず、解雇時の支払額は通常通り費用として計上します。
ただし、当該解雇によって引当ての対象となる従業員数が減るため、計算方法によっては結果的に引当金額が減少(利益計上)し、その利益と解雇補償金支払いの費用が部分的に相殺されるというようなことは生じます。
以上となります。
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タイ|会計・税務・労務サービス
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