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※本内容は執筆時点(21年12月)のものです。
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タイでの有給休暇買取の基礎知識
ご質問の要約
〈弊社状況〉弊社では未消化の有給休暇の繰越を累計15日まで認めています。また会社で有給休暇推奨日を設定し、これを周知しています。
1.年度末時点の取り扱い
取得推奨日は設定しているため、繰越せない未消化有給休暇について年度末時点で買取義務はない理解で良いでしょうか。
2.退職時の取扱い
退職時の未消化有給休暇につき、以下それぞれについての買取義務の有無を教えていただけますでしょうか。
- 当年度付与分
- 前年度付与分
- 前々年度以前付与分
カイプロ専門家の回答
回答者:BM Accounting 長澤(社会保険労務士、米国公認会計士(inactive))(以下、本記事全体で同様)
1.年度末時点の取り扱い
労働者保護法64条に基づき未消化の有給休暇は原則買い取りが必要ですが、就業規則等で会社と従業員で別途合意がある場合は翌年度以降への繰り越しが可能です。(1年繰越、2年繰越など)
この場合でも、繰越期間の終了時点で未消化の有給休暇については原則として買取が必要です。
ただし一般的な見解として、翌年度以降へ繰り越した年次有給休暇を会社が繰越期間中に消化することを促したにも関わらず繰越期間内で消化しない場合、会社の就業規則等に失効の旨の定めがある場合は繰越期間の終了時に失効とすることが可能です。
そのため、この場合にはご理解のとおり年度末時点で買取り義務はありません。
2.退職時の取扱い
(1)当年度付与分
懲戒解雇以外の一般解雇の場合、当年度に付与された未消化有給休暇の買取義務があります。
一方、懲戒解雇および自己都合退職の場合は当年度に付与された未消化有給休暇の買取義務はありません。
(2)前年度付与分
解雇/退職理由に関わらずどのような場合でも、前年度から繰り越された未消化有給休暇については買取義務があります。
(3)前々年度以前付与分
前述の通り、繰越期間中に取得するよう促し、その結果失効した分については買取り義務はありません。 (ただし失効していない分は買取り義務があるため、2年繰越を認めている場合で失効せず当年度まで繰り越されている分などは買取義務があります。)
法定付与分についての取り扱いは以上となります。
なお、法定以上での付与分の繰越し・買取りは任意で定められるため、就業規則等での規定に従うこととなります。一般的に法定以上の付与分の取扱いにつき明確に区分していない場合、法定付与分の取扱いに準ずるケースが多くなっています。
※カイプロ補足
懲戒解雇・自己都合退職 | 会社都合による一般解雇 | |
---|---|---|
当年度付与分 | 買取り義務なし | あり |
繰越分のうち失効していないもの | あり | あり |
繰越後、取得奨励をもとに失効したもの | なし | なし |
なお翌年頭に付与される分は退職時点で権利が確定していないため、いずれの場合でも買取り義務はありません。
取得を促す行為の例
ご質問の要約
繰越した有給休暇を失効させる場合の前提となる「取得を促す」方法として、どのような方法がありますでしょうか。
カイプロ専門家の回答
取得を促す行為について、判例上は会社が具体的な取得日を決めるような場合がみられます。(従業員が期限中に取得しない場合に、会社側で取得日を決め、それでも従業員側が行使しない場合に失効させる)
ただし実務上は上記の対応ではハードルが高いことから、取得奨励日を決めて通知する、あるいはメール等で取得を促すといった対応もある程度一般的に見られます。この点、労働局へ個別確認する限りでは当該対応で問題ない旨の回答も受けています。
ただし保守的に考える場合、事後的に争いになる場合は判例をもとに判断される可能性も残るものと考えられます。
一般解雇時の最終年付与分の取り扱い
ご質問の要約
退職者につき、本年付与分の有給休暇の買い取りについては、本年の在籍期間に応じて月割りなどをして買い取ることは可能でしょうか。
カイプロ専門家の回答
退職が「自己都合退職」または「懲戒解雇」の場合、本年付与分についてはそもそも買取り義務がありません。
一方、退職理由が「懲戒解雇でない一般解雇」によるものである場合、タイの年次有給休暇に対する考え方が前年勤務分を翌年頭に付与となっているため、年の途中の一般解雇の場合でも月割り等せずに本年付与分の全てを買取る必要があります。(※)
(※見解が分かれる部分ですが、当社の対応ケースでは労働局より通常このように判断されています)
(※在籍期間に応じた月割りは労働者保護法30条で勤続期間に比例しての付与が定められている点からの理解かと思いますが、当該条文は年度途中の入社者に関する初年度の計算を念頭に置いた規定となります。)
前倒し付与時における最終年付与分の取り扱い
ご質問の要約
当社では「前年勤務分を翌年頭に付与」ではなく、「当年勤務分を当年頭に付与(入社年は月割り)」という規定になっています。
この場合でも、会社都合解雇の場合には解雇年の付与分全てを買取る必要がありますでしょうか?
カイプロ専門家の回答
当年付与分の全日数買取りは「前年勤務分を翌年頭に付与」の考え方が前提のため、貴社での個別同意書や就業規則において「当年勤務分を当年頭に付与」等の前倒し付与の規定となっている場合には留意が必要です。
原則の「前年勤務分を翌年頭に付与」 の方法では「入社年は有給休暇なし、2年目の頭に1年目の勤務期間に応じた割合で付与」となりますが、例外方法として前倒し規定を採り、例えば「入社年は在籍期間に応じて当年に付与、2年目の頭に2年目分の6日を付与」としている場合、一般解雇の際、最終年の当年付与分全体を買い取ると、入社から退職までの全体で見ると前倒しでない原則と比較して総買い取り日数が多くなってしまうため、この部分の取り扱いを予め規定しておくことが望まれます。
例えば、「一般解雇の場合、前倒し付与された退職年の付与分は期間に応じて買い取る」「一般解雇の場合、退職年の付与分は買い取らない」等の規定を就業規則等に盛り込むことも選択肢です。
(解雇時の最終年の当年付与分は、前倒し規定でない原則方法では本来付与されない部分のため、このような法律の原則より手厚い福利厚生部分については就業規則等で制限をかけることが通常可能です。ただし、これまで規定が無く全数買取りをしていたが新たに規定を設ける場合、特に実施期間が長い場合には不利益変更として従業員の個別同意が必要となる可能性があります。)
※カイプロ注
【一般解雇の場合】
入社年 | 2年目 | 解雇の前年 | 解雇年 | |
---|---|---|---|---|
原則:前年勤務分を当年頭に付与 | 付与なし | 入社年の在籍期間に応じて付与 | 前年付与分(前々年勤務分)につき、退職年への繰越し分は買取り | 当年付与分(前年勤務分)の全数を買取り |
例外:入社年から在籍期間に応じ当年付与で労使合意(前倒し規定) | 在籍期間に応じて付与 | 1年分を付与 | 前年付与分(前年勤務分)につき、退職年への繰越分は買取り | 当年付与分(当年勤務分)の全数を買取り? ⇒規定していない場合が多い。期間按分や買取りしないことも選択肢。 |
※例外における解雇年付与分は、原則ではそもそも権利確定前で付与されない部分。法律上の原則よりも労働者側のメリットが下回る内容でなければ、一般的には就業規則で制限が可能。
【自己都合退職・懲戒解雇の場合(参考)】
入社年 | 2年目 | 退職の前年 | 退職年 | |
---|---|---|---|---|
原則:前年勤務分を当年頭に付与 | 付与なし | 入社年の在籍期間に応じて付与 | 前年付与分(前々年勤務分)につき、退職年への繰越し分は買取り | 当年付与分(前年勤務分)の買取り義務なし |
例外:入社年から在籍期間に応じ当年付与で労使合意(前倒し規定) | 在籍期間に応じて付与 | 1年分を付与 | 前年付与分(前年勤務分)につき、退職年への繰越分は買取り | 当年付与分(当年勤務分)の買い取り義務なし |
※ 自己都合退職・懲戒解雇の場合、前年勤務分(当年付与分)は原則では買取り義務はありませんが、例外(前倒し規定)では前年に既に付与され繰り越されているため買取り義務があることになります。つまり前倒し規定を採ることで(就業規則等で別段の規定がなければ)最終的な付与・買取り数は多くなることになります。(一般解雇の場合、退職年付与分も全数買取りのため、この差は生じません。)
この分(前倒し規定における前年勤務分で前年に付与され繰り越されたもの)についても、原則では当年付与され本来買取り義務がない部分のため、就業規則で制限が可能と考えられます。
繰越し・買取り方針の変更
ご質問の要約
当社では毎年年末に有給残の繰越しまたは買取りを従業員に選択させています。可能であれば退職時以外の買い取りは廃止したいのですが、可能でしょうか。
カイプロ専門家の回答
貴社の場合、これまで繰越し/買取りを選択させていますので、特に実施期間が長い場合には既得権として捉えられ、今後の買い取りを退職時のみに変更する場合、不利益変更として個別の同意が必要とされる可能性があります。
有給休暇の退職前の買取り
ご質問の要約
当社規定では有休は年内に消化し、翌年に繰り越ししない旨規定されています。
繰越をさせない場合は買取りが必要な理解ですが、今期初めて買取りをします。買取り額は通常の給与を日割りで計算し算出すれば良いでしょうか。
カイプロ専門家の回答
在職中の未消化有給休暇については、前述の就業規則等への記載を前提とした繰越・取得奨励による失効処理ではなく、在職中も各年で買い取りをされる会社様もございます。
この点、会社が有給休暇の消化を認めない場合、休日の割増賃金レートでの支払いが必要との判例があります。
そのため、在職中の各年で買取りを行う場合であっても、割増賃金レートでの支払いを回避するためにはやはり取得勧奨を行い、促したにも関わらず取得をしなかったので通常のレートでの買取りと扱う必要があります。
ただし、実務上は取得勧奨を経ずとも、通常の給与の日割り計算として問題とはなっていないケースも多くございます。
以上となります。
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